平成18年(ハ)第108号敷金返還請求事件
消費者法ニュース72号211頁
裁判官 西田文則
【事案の概要】
建物賃貸借契約の敷引特約が10条違反かどうかが争われた。
【判断の内容】
① 法人は「事業者」(2条2項)にあたる。
② 原告が学者であっても,事業としてまたは事業のために契約したものでないことは明らかであり「消費者」(2条1項)にあたる。
③ 本件敷引特約は10条違反である。
平成18年(ハ)第108号敷金返還請求事件
消費者法ニュース72号211頁
裁判官 西田文則
【事案の概要】
建物賃貸借契約の敷引特約が10条違反かどうかが争われた。
【判断の内容】
① 法人は「事業者」(2条2項)にあたる。
② 原告が学者であっても,事業としてまたは事業のために契約したものでないことは明らかであり「消費者」(2条1項)にあたる。
③ 本件敷引特約は10条違反である。
平成19年(ワ)第23907号不当利得返還等請求事件
未登載
裁判官 綿引穣
【事案の概要】
セクハラ発言を受け,プロダクションとの所属タレント契約を解除したタレントが,契約金(25万円)の返還を求めるなどしたのに対し,契約金は受領後如何なる場合であっても一切返還しない旨の条項の効力が争われた。
【判断の内容】
契約金は受領後如何なる場合であっても一切返還しない旨の条項につき,解除に伴い当該事業者に発生する平均的損害を超える部分は9条1号により無効と解す べきところ,事実関係に照らし,プロモートのために撮った写真代(1万2600円)のほかに合理的な出費の存在を認めることはできないとし,これを差し引 いた残金につき返還請求を認めた。
平成18年(ワ)第453号生命保険金請求事件
消費者法ニュース72号207頁
裁判官 上拂大作
【事案の概要】
生命保険契約の保険金請求に対し,保険料の支払いが猶予期間を2日過ぎてなされたとして,失効約款の適用により失効しているとして争われ,生命保険契約の 失効約款の適用に関し,未払保険料の支払が猶予期間を2日も経過しないうちに行われている場合は,消費者契約法・消費者基本法等の消費者保護の理念に基づ き,保険契約の失効を主張することは信義則上相当ではないとされた事例
【判断の内容】
次の理由から,原告の請求を認めた。
① 本件保険約款は,一応,有効。
② しかし,信義則や当事者間の衡平の見地,消費者契約法等,消費者と事業者との格差に鑑み,約款の規制を検討する必要がある。
③ 本件失効約款は,民法の原則よりも消費者に不利益になっている。
④ 保険ではわずか2日の遅れで,それまでは継続して払われていたし,自動振替制度で引き落としがなされない場合には取立債務に準じた債務の履行ということになり,実際に預金があった場合には不履行を認めることができず,原告に帰責性がない。軽微。
⑤ よって,本件失効約款を適用することは信義則上相当ではなく,失効を主張することはできない。
平成19年(ワ)第2242号定額補償分担金・更新料返還請求事件
判例時報2052号86頁,判例タイムズ1281号316頁,金融商事判例1299号56頁,最高裁HP,国セン報道発表資料(2008年10月16日公表)
裁判官 中村哲,和久田斉,波多野紀夫
控訴審 H20.11.28大阪高裁判決
【事案の概要】
建物賃貸借契約の定額補修分担金条項について10条で無効とした事例
【判断の内容】
16万円の定額補修分担金条項につき,下記のとおり判示した。
建物賃貸借の場合はその使用に伴う物件の損耗は賃貸借契約の中で当然に予定されているから物件の通常損耗の回収は通常賃料の支払を受けることで行われる。 そうすると,原則として,賃借人に通常損耗についての回復義務を負わせることはできない。賃貸人は通常修繕費用にどの程度要するかの情報をもっているが賃 借人はこれらの情報をもっていないので,賃借人がこれらの点について賃貸人と交渉することは難しく定額補修分担金額は賃貸人が一方的に決定している。軽過 失損耗の回復費用が設定額より多額であったという特段の事情がない限り賃借人に有利とはいえない。分担金額は月額賃料の2.5倍程度で一般的な回復費用に 比べて高額である。これらの事情からは消費者の不利益を負わせるもので,10条により無効である。
平成18年(レ)第196号損害賠償請求控訴事件,平成18年(レ)第239号損害賠償請求附帯控訴事件
判例タイムズ1273号221頁
裁判官 横山光雄,高木勝己,小川清明
【事案の概要】
建物賃貸借契約の敷引特約が10条により一部無効であるとして,賃借人の賃貸業者に対する敷金返還請求が一部認容された事例
【判断の内容】
次の理由から,25万円について請求を認めた。
① 敷引金の性質は,契約成立の謝礼,自然損耗の修繕費用,更新料免除の対価,終了後の空室賃料,賃料を低額にすることの代償などの様々な要素を有するものが渾然一体となったものである。
② 本件敷引金のうち,契約更新の際賃料を下げる代わりに敷引金を5万円上げたことが明らかであり,この部分は賃料減額の代償である。残りの25万円については元々予定されていた敷引金であり,①の性質を有する。
③ 5万円の部分は賃料低額の代償として賃借人に一方的に不利益ということはできず有効であるが,25万円の部分は一方的に不利益である。
④ 敷引特約は,賃借人の交渉努力によって特約自体を排除することは困難であり,事業者が一方的に押しつけている状況にあるといっても過言ではない。本件敷引特約についても,25万円については交渉の余地がなかったと認められる。
平成19年(ワ)第5823号損害賠償請求事件
判例タイムズ1290号176頁
裁判官 西岡繁靖
【事案の概要】
自動車販売会社からインターネットオークションで中古車を購入した者が,メーターの巻き戻しによって実際の走行距離が表示の8倍以上であったとして瑕疵担保責任,不法行為責任を追及した事例。現状のまま引き渡し,保証なしとの約定の有効性が争われた。
【判断の内容】
販売業者が,本件契約が業者向け販売であるから,消費者契約でないと主張したのに対し,情報・交渉力の格差が事業に由来することから,消費者と事業者の概 念を区別して消費者契約の定義で用いているのであるから,本件契約が業者向けの価格,内容で締結されたことをもって,消費者契約であることを否定すること はできないとして,消費者契約法の適用を認め,8条1項5号により免責条項を無効として,瑕疵担保責任を認めた。
平成17年(受)第1930号解約精算金請求事件
最高裁HP,最高裁判所民事判例集61巻3号967頁,判例時報1976号40頁,判例タイムズ1246号95頁,金融商事判例1275号17頁,1277号8頁
裁判官 那須弘平,上田豊三,藤田宙靖,堀籠幸男,田原睦夫
【事案の概要】
外国語会話教室の受講契約の解除に伴う受講料の精算について定める約定が,特商法49条2項1号に定める額を超える額の金銭の支払を求めるものとして無効であるとされた事例
【判断の内容】
① 本件使用済ポイントの対価額も,契約時単価によって算定されると解するのが自然。
② 契約時よりも常に高額となる精算規定は,実質的には,損害賠償額の予定又は違約金の定めとして機能するもので,受講者による自由な解除権の行使を制約するものといわざるを得ない。
平成19年(ワ)第22625号損害賠償請求事件
国民生活センター消費者問題の判例集
裁判官 澤野芳夫,荻原弘子,長井清明
【事案の概要】
FX業者側のシステムの不具合により直ちに決済できなかったとしても一切賠償責任を負わないとの約款について,8条の趣旨からは,限定的に解釈すべきとした事例
【判断の内容】
① 原告のロスカット・ルールへの期待は合理的で法的保護に値し,被告は有効証拠金額が維持証拠金額を割り込んだ時にロスカット手続に着手する義務を負っていた。
② 被告は不十分なコンピューターシステムしか用意しておらず,そのシステムの不具合により,本件ロスカット時においてカバー取引の注文を出せなかったのであって(①の義務違反),これにより原告が受けた損害につき不法行為又は債務不履行の責任を負う。
③ コンピューターシステムの不具合によるカバー取引の遅延に関する被告の免責約款は,8条1項1号,同条項3号の趣旨に照らし,真に予測不可能な障害や 被告の影響力の及ぶ範囲の外で発生した損害といった被告に帰責性の認められない事態によって顧客に生じた損害について,被告が損害賠償の責任を負わない旨 を規定したものと解するほかなく,本件はこれに該当しない(被告は免責されない)。
平成18年(レ)第79号敷金返還請求控訴事件
最高裁HP,消費者法ニュース73号214頁
裁判官 山下寛,森里紀之,衣斐瑞穂
【事案の概要】
控訴人が,被控訴人との間で締結した賃貸借契約には,賃貸借契約終了時に敷金の一部を返還しない旨のいわゆる敷引特約が付されており,被控訴人から敷金
35万円のうち5万円しか返還されなかったことから,上記敷引特約が10条により全部無効であるとして,被控訴人に対し,敷金残金30万円などの返還を求
めたところ,上記敷引特約は10条により無効であると判断された事例
【判断の内容】
以下の理由から,敷引特約が10条違反により無効であるとして返還請求を認めた。
① 賃貸借においては賃借人に債務不履行があるような場合を除き,賃借人が賃料以外の金銭の支払を負担することは法律上予定されておらず,また,関西地方
において敷引特約が事実たる慣習として成立していることを認めるに足りる証拠はないから,本件敷引特約は,民法の公の秩序に関しない規定の適用による場合
に比し,消費者の権利を制限するものである。
③ 自然損耗についての必要費は賃料により回収され,更に敷引特約によりこれを回収することは,契約時に敷引特約の存在と敷引金額が明示されていたとして
も,賃借人に二重の負担を課すことになる。また,敷引特約は関西地区における不動産賃貸借において付加されることが相当数あり,賃借人が交渉でこれを排除
することは困難であって,消費者が敷引特約のなされない物件を選択すればよいとは当然にはいえない状況にあることなどを総合すると,本件敷引特約は,信義
則に反して消費者の利益を一方的に害するものである。
平成20年(少コ)第3号保証金返還請求事件
未登載
裁判官 藤野美子
【事案の概要】
保証金35万円から30万円を差し引いて返還する旨の解約引特約が10条により無効とされた事例
【判断の内容】
契約成立の謝礼や新規賃借員募集の費用,空き室損料等は,賃借人が当然に支払わなければならない性質の金員ではないにもかかわらず,その趣旨を明示せずに 解約引という形で支払強要するのは不当であり,また,賃料先払であるとしても,解約引特約により賃料が低額に抑えられたと認めるに足りる証拠はなく,賃貸 借期間が判然としない契約時に固定金額を賃料先払として受領する合理性もなく,本件解約引特約は合理的な趣旨・目的に基づくものとは認められない。解約引 率も約85.7%と高く,本件解約引特約は10条により無効というべきである。