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「不当条項」カテゴリー|消費者契約法判例集

◆ H24.06.29大阪高裁判決

2012年7月21日 公開

消費者庁HP(PDF)国セン発表情報(2012年11月1日公表)
適格消費者団体 京都消費者契約ネットワーク
事業者 株式会社ジェイ・エス・ビー
第1審 H24.01.17京都地裁判決

【事案の概要】
適格消費者団体が、不動産業者である株式会社ジェイ・エス・ビーに対し、更新料条項が10条により無効であるとして、主位的に、更新料条項を含む意思表示の停止及び同行為に供する契約書用紙の破棄を求め、予備的に、更新期間1年に対する更新料の額が月額賃料の2倍以上の更新料を支払う旨の条項につき、主位的請求と同様に、その意思表示の停止及び同行為に供する契約書用紙の破棄を求めた事案の控訴審。第1審は請求を棄却し、主意的請求について原告が控訴した。

【判断の内容】
控訴棄却。
① 被控訴人が現に使用していた更新料条項の額が高額に過ぎ、信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものであるか否かを判断するためには、更新料の額、賃料の額、賃貸借契約が更新される期間のほかにも、賃貸借物件の適正賃料額と約定賃料額との対比や、賃借人が支払う賃料や更新料等を含めた総支払額と適正賃料額との対比等の個別具体的な事情を各賃貸借契約ごとに斟酌、検討することが必要となるから、そのような個別具体的な事情を斟酌することなく、一律に上記更新料額が高額に過ぎ、信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものとは直ちに断定することができないというべきである。
② 被控訴人が現に使用していた更新料条項において一律に平成23年最判が説示する特段の事情があるとはにわかに認めることができない。

◆ H24.07.19京都地裁判決

2012年7月19日 公開

平成22年(ワ)第2497号、平成23年(ワ)第917号、平成24年(ワ)第555号解約違約金条項使用差止請求事件(第1事件)、不当利得返還請求事件(第2事件、第3事件)
最高裁HP消費者庁HP(PDF)判決写し(PDF、京都消費者契約ネットワークHP)、金融商事判例1402号31頁、判例時報2158号95頁、国セン発表情報(2012年11月1日公表)
裁判官 佐藤明、柳本つとむ、板東純
適格消費者団体 京都消費者契約ネットワーク
事業者 KDDI株式会社
控訴審 H25.03.29大阪高裁判決

【事案の概要】
 適格消費者団体が、携帯電話会社に対し、消費者が二年間の定期契約を契約期間の途中に解約する際に解約金を支払うことを定める契約条項が、9条1号及び10条により無効であると主張して、12条3項に基づき、条項使用差し止めを求め(第1事件)、解約金の不当利得返還請求を求める事案(第2事件、第3事件)。請求を一部認容した。

【判断の内容】
① 9条1号の趣旨は、事業者が、消費者に対し、消費者契約の解除に伴い事業者に「通常生ずべき損害」(民法416条1項)を超過する過大な解約金等の請求をすることを防止するという点にある。したがって、9条1号は、債務不履行の際の損害賠償請求権の範囲を定める民法416条を前提とし、その内容を定型化するという意義を有し、同号にいう損害とは、民法416条にいう「通常生ずべき損害」に対応するものである。
② 同号が「平均的」という文言を用いたのは、消費者契約は不特定かつ多数の消費者との間で締結されるという特徴を有し、個別の契約の解除に伴い事業者に生じる損害を算定・予測することは困難であること等から、解除の事由、時期等により同一の区分に分類される複数の契約における平均値を用いて、解除に伴い事業者に生じる損害を算定することを許容する趣旨に基づくもの。
③ 9条1号は、「当該条項において設定された解除の事由、時期等の区分に応じ」て事業者に生ずべき平均的損害を算定することを定めるが、事業者が解除の事由、時期等による区分をせずに、一律に一定の解約金の支払義務があることを定める契約条項を使用している場合であっても、解除の事由、時期等により事業者に生ずべき損害に著しい差異がある契約類型においては、解除の事由、時期等により同一の区分に分類される複数の同種の契約における平均値を用いて、各区分毎に、解除に伴い事業者に生じる損害を算定すべきである。
④ 以上によれば、9条1号の平均的損害の算定は、民法416条に基づく損害の算定方法を前提とし、解除事由、時期等により同一の区分に分類される同種の契約における平均値を求める方法により行うべきである。
⑤ 本件解約金条項中、①本件定期契約が締結又は更新された日の属する月から数えて二二か月目の月の末日までに解約がされた場合に解約金の支払義務があることを定める部分は有効であるが、②本件定期契約が締結又は更新された日の属する月から数えて二三か月目以降に解約した場合に「平均的損害の額」(別紙として算定)を超過する解約金の支払義務があることを定める部分は、上記超過額の限度で、9条1号により、無効である。
⑥ 解約に伴い、別の契約を締結する機会が新たに生じ、これにより損害が填補されたといえる場合には、解約に伴う逸失利益から上記損害の填補額を控除することにより平均的損害を算定するが、解約に伴い別の契約を締結する機会が新たに生じたといえない場合には、平均的損害の算定にあたり、他の契約を締結することによる損害の填補の可能性を考慮することはできない。本件通信契約においては、ある契約が締結されることにより、他の契約を締結する機会を喪失するとはいえず、それゆえ、解約に伴い別の契約を締結する機会が新たに生じるともいえないから、他の契約を締結することによる損害の填補の可能性を考慮することはできない。

◆ H24.07.11東京高裁判決

2012年7月11日 公開

平成23年(ネ)第6129号保険金請求控訴事件
金融商事判例1399号8頁、国セン発表情報(2012年11月1日公表)
裁判官 福田剛久、塩田直也、東亜由美

【事案の概要】
 生命保険契約で、①失効条項(月払契約の場合、払込期月の翌日初日から末日まで保険料を猶予するが、猶予期間内に保険料が払い込まれないときは、保険契約は猶予期間満了の日の翌日から効力を失う旨の条項)、②復活条項(保険契約者は、保険契約が効力を失った日から起算して3年以内は保険契約の復活を請求することができる旨の条項)、③自殺免責条項(責任開始期〔復活の取扱いが行われた後は最後の復活の際の責任開始期〕の属する日から起算して2年以内の自殺を免責事由とする条項)があり、本件保険契約は、①平成19年8月31日の経過により、同年7月分の保険料の不払を理由として本件失効条項により失効したものと扱われ、②同年10月31日、契約者兼被保険者からの復活の申込みに基づいて本件復活条項に基づいて復活したものと扱われていたところ、③契約者兼被保険者は、本件免責条項により復活後に再開された自殺免責期間内の平成21年7月22日、自殺により死亡したというもので、保険金請求の事案。
 ①本件失効条項は消費者契約法10条により無効であり、②仮にそうでないとしても、控訴人が本件免責条項による免責を主張することは権利の濫用ないし信義則違反として許されないと主張して、死亡保険金等の請求をした。
 原審は、本件失効条項は消費者契約法10条により無効であると判断し、被控訴人の請求を認容していた。

【判断の内容】
① 多数の保険契約者を対象とするという保険契約の特質に加え、本件約款において保険契約者が保険料の不払をした場合にもその権利保護を図るために一定の配慮をした定めが置かれていることにかんがみれば、控訴人において、本件保険契約の締結当時、保険料支払債務の不履行があった場合に契約失効前に保険契約者に対して保険料払込みの督促を行う態勢を整え、そのような実務上の運用が確実にされていたとすれば、通常、保険契約者は保険料支払債務の不履行があったことに気付くことができると考えられるから、本件失効条項は、信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものに当たらない(最高裁平成24年判決)。
② 控訴人(保険会社)は、本件保険契約の締結当時、保険料支払債務の不履行があった場合に契約失効前に保険契約者に対して保険料払込みの督促を行う態勢を整え、そのような実務上の運用が確実にされていたと認められ、通常、控訴人の保険契約者は、保険料支払債務の不履行があったことに気付くことができると認められる。したがって、本件失効条項は、信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものには当たらないというべきである。
③ 本件免責条項が復活時にも一定の期間を自殺免責期間として再開することとしているのは、当初の自殺免責期間と同様に、一定の期間内の被保険者の自殺による死亡の場合に限って、動機・目的にかかわりなく、一律に保険者を免責することによって生命保険契約が不当な目的に利用されることを防止する考えによるものと解され、個別の保険契約者の動機・目的により、その適用が左右されることは相当ではない。

◆ H24.07.05東京地裁判決

2012年7月5日 公開

平成22年(ワ)第33711号消費者契約法12条に基づく差止請求事件
消費者庁HP(PDF)消費者機構日本HP(判決写しあり)、金融商事判例1409号54頁、判例時報2173号135頁、国セン発表情報(2012年11月1日公表)
裁判官 谷口安史、日置朋弘、川勝庸史
適格消費者団体 消費者機構日本
事業者 三井ホームエステート株式会社
控訴審 H25.03.28東京高裁判決

【事案の概要】
 適格消費者団体が,不動産賃貸業者に対し,①更新料の支払を定めた条項及び②契約終了後に明渡しが遅滞した場合の損害賠償額の予定を定めた条項が9条1号及び10条に規定する消費者契約の条項に当たると主張して,消費者契約法12条3項に基づき,その契約の申込み又は承諾の意思表示の停止及び契約書用紙の破棄並びにこれらを従業員に周知・徹底させる措置をとることを求めた事案。

【判断の内容】
●更新料条項について
① 賃貸借契約の更新料は,契約期間が満了し,賃貸借契約を更新する際に賃借人と賃貸人との間で授受される金員であるところ,これがいかなる性質を有するかは,賃貸借契約成立前後の当事者双方の事情,更新料条項が成立するに至った経緯その他諸般の事情を総合考量し,具体的事実関係に即して判断されるべきであるが(最高裁昭和59年4月20日第二小法廷判決・民集38巻6号610頁参照),更新料は,賃料と共に賃貸人の事業の収益の一部を構成するのが通常であり,その支払により賃借人は円満に賃借物件の使用を継続することができることからすると,更新料は,一般に,賃料の補充ないし前払,賃貸借契約を継続するための対価等の趣旨を含む複合的な性質を有するものと解するのが相当(最高裁平成23年7月15日第二小法廷判決・民集65巻5号2269頁参照)。
② このような更新料の一般的性質に加え,被告が,平成24年3月1日以降,本件更新料について,契約期間の満了時に契約の継続を選択する権利を行使する対価として支払われるものであることを契約書に明記していること(7条1項)に照らせば,事業者である被告は,本件更新料を,主として,賃貸借契約を継続するための対価として賃借人が賃貸人に支払うものであることを予定して契約書の条項に記載しているものと解するのが相当。
③ 本件更新料は,主として賃貸借契約を継続するための対価として支払われるものとされているから,継続後,その期間満了前に賃貸借契約が終了したとしても,その性質上,当然に賃借人に返還されるべきものであるとはいえない。そうすると,本件更新料支払条項において,更新後の契約期間の途中で賃貸人の責に帰すべからざる事由によって契約が終了した場合でも本件更新料が返還されない旨が定められているからといって,同条項をもって,契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し,又は違約金を定める条項であると解することはできない。
④ 本件更新料は,主として,賃貸借契約の継続の対価としての性質を有するものとされているところ,賃借人は本件更新料の支払により円満に賃貸借契約の継続を受けられる地位を取得するのであるから,本件更新料の支払におよそ経済的合理性がないなどということはできない。また,一定の地域において,期間満了の際,賃借人が賃貸人に対し更新料の支払をする例が少なからず存することは公知であることや,従前,裁判上の和解手続等においても,更新料の支払を約する条項が公序良俗に反するなどとして,これを当然に無効とする取扱いがされてこなかったことは裁判所に顕著であることからすると,更新料の支払を約する条項が賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載され,賃借人と賃貸人との間に更新料の支払に関する明確な合意が成立している場合に,賃借人と賃貸人との間に,更新料の支払を約する条項に関する情報の質及び量並びに交渉力について,看過し得ないほどの格差が存するとみることもできない。
 そうすると,本件更新料支払条項についても,賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載されていると認められ,かつ,更新料の額が賃料の額,賃貸借契約が更新される期間等に照らし高額に過ぎるなどの特段の事情がない限り,消費者契約法10条にいう「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」には当たらないと解するのが相当。(以上につき,前掲最高裁平成23年7月15日判決参照)
 本件更新料支払条項は,契約の継続をしようとする場合に更新料を支払うべきこと及びその金額の算定方法が契約書に一義的かつ明確に記載されている上に,その内容は,被告が取り扱う賃借物件につき,当該賃貸借契約が更新される期間を2年間としつつ,一律に更新料の額を賃料の1か月分とするものであり,本件更新料の性質が主として契約を継続するための対価であることを踏まえても,その額が高額に過ぎるものと認めることはできない。そして,賃借人としても本件更新料を上記のとおり理解することに特段の支障があるものとは認められないから,上記特段の事情が存するとはいえない。
 したがって,本件更新料支払条項は消費者契約法10条後段の要件を充足しない。
●倍額賠償予定条項について
① 9条1号は,事業者が消費者契約の解除に伴い高額な損害賠償の予定又は違約金の定めをして消費者に不当な金銭的負担を強いる場合があることに鑑み,消費者が不当な出捐を強いられることのないように,消費者契約の解除の際の損害賠償額の予定又は違約金の定めについて,一定の限度を超える部分を無効とする規定である。
② 本件倍額賠償予定条項は,約定解除権又は法定解除権が行使されて契約が終了する場合のみならず,契約が更新されずに期間満了により終了する場合も含め,賃貸借契約が終了する場合一般に適用されるものであり,その条項上の文言としても,契約の解除ではなく契約が終了した日以降の明渡義務の不履行を対象としていることからすれば,本件倍額賠償予定条項は,契約が終了したにもかかわらず賃借人が賃借物件の明渡義務の履行を遅滞している場合の損害に関する条項であって,契約の解除に伴う損害に関する条項ではないと解すべき。
③ 建物賃貸借契約書に記載された契約終了後の目的物明渡義務の遅滞に係る損害賠償額の予定条項については,その金額が,上記のような賃貸人に生ずる損害の填補あるいは明渡義務の履行の促進という観点に照らし不相当に高額であるといった事情が認められない限り,消費者契約法10条後段にいう「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」には当たらない。本件は当たらない。

◆ H24.04.23東京地裁判決

2012年4月23日 公開

平成23年(レ)第774号不当利得返還請求控訴事件
LLI/DB、ウエストロー・ジャパン
裁判官 戸田久、大野昭子、中野雄壱

【事案の概要】
結婚式のドレス等のレンタル契約を締結し、同日レンタル料を支払ったものの、翌日に解約し、レンタル料の返還を求めた事案。解約料条項として、申込日より5日以内は0%,申込日より6日目以降から挙式日よりさかのぼり125日前までは内金全額,挙式日よりさかのぼり91日前までは衣装総額の80%,それ以降は100%,仮合わせ後,又は挙式日まで61日以内での申込みの場合は衣装総額100%との記載があり、さらに、特別セットプラン,キャンペーンの場合は申込み後(ご署名後)総額100%との約定があった。本件はキャンペーンのものだった。

【判断の内容】
 ドレス等のレンタル契約の成立後,契約を解除された事業者が被る平均的な損害(9条1号)は,当該契約が解除されることによって当該事業者に一般的,客観的に生ずると認められる損害をいうところ,契約成立の翌日にはこれを解約する意思表示がされた本件の場合,契約締結から解除までの実質1日の期間中に,解約による平均的な損害は発生しないとして,違約金条項が9条1号により無効であるとし、レンタル料の返還請求を認めた。

◆ H24.03.28京都地裁判決

2012年4月7日 公開

平成22年(ワ)第2498号、平成23年(ワ)第918号 解約違約金条項使用差止請求事件(甲事件)、不当利得返還請求事件(乙事件)
最高裁HP消費者庁HP(PDF)判決写し(PDF、京都消費者契約ネットワークHP)、金融商事判例1402号31頁、判例時報2150号60頁、LLI/DB、国セン発表情報(2012年11月1日公表)
裁判官 吉川愼一、吉岡真一、高嶋諒
適格消費者団体 京都消費者契約ネットワーク
事業者 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ
控訴審 H24.12.07大阪高裁判決

【事案の概要】
 適格消費者団体が携帯電話会社に対し、解約金に関する条項が9条1号又は10条に該当して無効であると主張して、12条3項に基づき当該条項の内容を含む契約締結の意思表示の差止めを求め(甲事件)、同条項に基づく違約金を被告に対して支払った者が不当利得返還請求を行った(乙事件)事案。

【判断の内容】
① 契約の目的である物又は役務等の対価それ自体に関する合意については,当該合意に関して錯誤,詐欺又は強迫が介在していた場合であるとか,事業者の側に独占又は寡占の状態が生じているために消費者の側に選択の余地が存在しない場合であるとかといった例外的な事態を除き,原則として市場における需要と供給を踏まえた当事者間の自由な合意に基づくものであり、契約の目的である物又は役務の対価についての合意は,10条により無効となることはない。
② ある条項が契約の目的である物又は役務の対価について定めたものに該当するか否かについては,その条項の文言を踏まえつつ,その内容を実質的に判断すべきである。本件解約金条項は、契約の目的である物又は役務の対価について定めたものではない。
③ 消費者契約における「平均的な損害」を超える損害賠償の予定又は違約金を定める条項を無効とした法9条1号の趣旨は,特定の事業者が消費者との間で締結する消費者契約の数及びその解除の件数が多数にわたることを前提として,事業者が消費者に対して請求することが可能な損害賠償の額の総和を,これらの多数の消費者契約において実際に生ずる損害額の総和と一致させ,これ以上の請求を許さないことにあると解すべきである。
 このような法9条1号の趣旨からすれば,事業者は,個別の事案において,ある消費者の解除により事業者に実際に生じた損害が,契約の類型ごとに算出した「平均的な損害」を上回る場合であっても,「平均的な損害」を超える額を当該消費者に対して請求することは許されないのであり,その反面,ある消費者の解除により事業者に実際に生じた損害が,「平均的な損害」を下回る場合であっても,当該消費者は,事業者に対し「平均的な損害」の額の支払を甘受しなければならないということになる。
 したがって,法は,事業者に対し,上記のような「平均的な損害」についての規制のあり方を考慮した上で,自らが多数の消費者との間で締結する消費者契約における損害賠償の予定又は違約金についての条項を定めることを要求しているということができる。
④ 更新後においても基本使用料金の割引額(標準基本使用料金と割引後基本使用料金との差額)の平均額には何ら差がないと考えられるから,本件契約の更新後の中途解約による「平均的な損害」も,
被告と本件契約を締結した契約者につき,各料金プランごとの平成21年4月から平成22年3月までの月ごとの稼働契約者数(前月末契約者数と当月末契約者数を単純平均したもの)を単純平均し,それぞれに各料金プランごとの割引額(標準基本使用料金と割引後基本使用料金との差額)(税込)を乗じて加重平均した金額の,2160円に、
被告と本件契約を締結した契約者のうち,平成21年8月1日から平成22年2月28日までの間に本件契約(更新前のものに限る。)を解約した者について,本件契約に基づく役務の提供が開始された月からの経過月数ごとの解約者数に,それぞれの経過月数を乗じて加重平均した月数の,14か月を、
乗じた3万0240円であると認められ,原告らの主張するように更新後の中途解約に際して解約金を徴収することがその金額に関わらず法9条1号に該当するとはいえないし,本件更新後解約金条項に基づく支払義務の金額である9975円は上記の3万0240円を下回るものであるから,本件更新後解約金条項が法9条1号に該当するということはできない。
⑤ 法10条前段における,民法等の「法律の公の秩序に関しない規定」は,明文の規定のほか,一般的な法理等をも含む。本件は、前段要件は該当する。
⑥ 消費者は本件当初解約金条項に基づき解約権の制限を受けるものの,そのことに見合った対価を受けており,制限の内容についても何ら不合理なものではなく,しかも,被告と消費者との間には,本件当初解約金条項に関して存在する情報の質及び量並びに交渉力の格差が存在するということはできないといえるから,本件当初解約金条項は,法10条後段には該当しない。
⑦ 消費者は,本件契約が更新された後に解約金の支払義務を負うとされることによって解約権の制限を受けるものの,そのことに見合った対価を受けており,制限の内容も不合理なものではないから,本件契約が更新された後における解約金の支払義務を定める条項が,金額を問わず一般的に法10条後段に該当するとはいえない。
 さらに,本件更新後解約金条項における9975円という金額は合理的なものであり,被告と消費者との間には,本件更新後解約金条項に関して存在する情報の質及び量並びに交渉力の格差が存在するということはできないといえるから,本件更新後解約金条項もまた,法10条後段には該当しないと解するのが相当である。

◆ H24.03.16最高裁判決

2012年3月16日 公開

平成22年(受)第332号 生命保険契約存在確認請求事件
最高裁HP、最高裁判所民事判例集第66巻5号2216頁、裁判所時報1552号153頁、判例タイムズ1370号115頁、金融・商事判例1395号14頁、金融・商事判例1389号14頁、判例時報2149号135頁、判例時報2169号153頁、金融法務事情1948号75頁、金融法務事情1943号76頁、国セン発表情報(2012年11月1日公表)国センHP(消費者問題の判例集)
裁判官 須藤正彦 古田佑紀 竹内行夫 千葉勝美
第1審 H20.12.04横浜地裁判決
控訴審 H21.09.30東京高裁判決
差戻審 H24.10.25東京高裁判決

【事案の概要】
保険料の払込みがされない場合に履行の催告なしに生命保険契約が失効する旨を定める約款の条項の,消費者契約法10条にいう「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」該当性

【判断の内容】
生命保険契約に適用される約款中の保険料の払込みがされない場合に履行の催告なしに保険契約が失効する旨を定める条項は,(1)これが,保険料が払込期限内に払い込まれず,かつ,その後1か月の猶予期間の間にも保険料支払債務の不履行が解消されない場合に,初めて保険契約が失効する旨を明確に定めるものであり,(2)上記約款に,払い込むべき保険料等の額が解約返戻金の額を超えないときは,自動的に保険会社が保険契約者に保険料相当額を貸し付けて保険契約を有効に存続させる旨の条項が置かれており,(3)保険会社が,保険契約の締結当時,上記債務の不履行があった場合に契約失効前に保険契約者に対して保険料払込みの督促を行う実務上の運用を確実にしているときは,消費者契約法10条にいう「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」に当たらない。
(反対意見がある。)

◆ H24.03.05東京地裁判決

2012年3月5日 公開

平成22年(ワ)第47338号損害賠償請求事件
ウエストロー・ジャパン 判例秘書
裁判官 棈松晴子

【事案の概要】
 被告のマンション建築計画区内にある土地を賃借して,建物を所有し,きしめん屋を経営していた原告が,建物及び賃借権の売却合意をし,きしめん屋を廃業したが,その後,被告が売買契約の締結を拒否したため,廃業に伴う損害が生じたとして,契約締結上の過失を主張して,損害賠償を求めた事案。
 合意書の、マンション計画地の権利者との間の権利調整が不調に終わったときは,原告は損害賠償請求をしない旨の条項の効力が争いとなった。

【判断の内容】
 以下の理由から、損害賠償請求をしない旨の条項は無効であるとして、損害賠償請求を認めた。
① 原告が,消費者契約法2条1項にいう消費者に該当し,被告が,同条2項にいう事業者に該当すること,本件合意書の合意が,同条3項にいう消費者契約に該当することは明らか。
② 本件合意書の同条項は,事業者の債務不履行又は不法行為により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除する条項であるから,消費者契約法8条1項3号に該当する条項に当たる。したがって,同条項の被告の責任の全部を免除する合意は無効であるから,被告が,同条項を理由に損害賠償義務を免れるということはできない。

◆ H24.02.29京都地裁判決

2012年2月29日 公開

平成21年(ワ)第4696号更新料等返還請求事件
消費者法ニュース92号257頁、LLI/DB、国セン発表情報(2012年11月1日公表)
裁判官 松本清隆

【事案の概要】
貸室の賃貸借契約に際し締結した基本清掃料特約(退室時,賃借室の原状復帰における室内清掃料金2万6250円を支払うものとし,基本清掃料を敷金より差し引くものとする)及び更新料特約(期間終了2か月前までに原告被告協議の上更新しうるものとし,賃借人は,賃貸人に,次年度更新料15万円を支払うものとする)が消費者契約法10条により無効か否かが争われた事案。

【判断の内容】
 通常損耗に含まれる汚損の原状回復費用が賃料に含まれないものとして賃料の額が合意されているとみるべき基本清掃料特約は,信義則に反して賃借人の利益を一方的に害するとはいえず,また賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載された更新料条項は,更新料の額が高額に過ぎるなど特段の事情がない限り,同法10条には該当しないが,本件賃貸借契約の更新料特約は,契約期間が1年であり,賃借人の負担などからすると,更新料の上限は年額賃料の2割が相当であり,これを超える部分の返還を求める限度で理由があるとした。

◆ H24.02.27大阪高裁決定

2012年2月27日 公開

平成23年(ラ)第1257号間接強制決定に対する執行抗告事件
判例時報2153号38頁
裁判官 前坂光雄 白井俊美 前原栄智
京都消費者契約ネットワーク

【事案の概要】
不動産会社に対する定額補修分担金条項の使用差し止めを命ずる判決に基づき、適格消費者団体が、不作為債務の履行と違反行為1回に付50万円の支払を命じる間接強制命令の申立をし、これを認めた決定に対して、不動産会社が不作為義務に違反するおそれがあるとの認定は誤りであると争った。

【判断の内容】
① 不作為を目的とする債務の強制執行として間接強制を決定するには、債務者がその不作為義務に違反するおそれがあることを立証すれば足り、債務者が現にその不作為義務に違反していることを立証する必要はなく、かつ、この要件は、高度のがい然性や急迫性に裏付けられたものである必要はないと解するのが相当。
② 本件間接強制申立の時点で、不動産業者は、訴訟において消費者契約法に反しないと争って報道機関にも表明しており、判決確定後には見解表明をしていないこと、おそれがあるとした判決確定後、格別の状況の変化がない事からは、不作為債務に違反するおそれがあると認めるのが相当。
③ 抗告人が、すでに使用しておらず、今後使用することはないと表明したが、不作為債務の内容及び相手方(適格消費者団体)と抗告人(不動産会社)の関係からすれば、本件の不作為債務に違反し、又は違反している兆候があることを立証することは極めて困難であると考えられることを考慮すると、本件において、抗告人が不作為義務に違反するおそれがあることを否定するのは相当でない。

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