「不当条項」カテゴリー|消費者契約法判例集
◆ H24.01.17京都地裁判決
平成22年(ワ)第4222号更新料条項使用差止等請求事件
消費者庁HP(PDF)、判決写し(PDF、京都消費者契約ネットワークHP)、国セン発表情報(2012年11月1日公表)
裁判官 松本清隆、井川真志、千葉康一
適格消費者団体 京都消費者契約ネットワーク
事業者 株式会社ジェイ・エス・ビー
控訴審 H24.06.29大阪高裁判決
【事案の概要】
適格消費者団体が、不動産業者である株式会社ジェイ・エス・ビーに対し、更新料条項が10条により無効であるとして、主位的に、更新料条項を含む意思表示の停止及び同行為に供する契約書用紙の破棄を求め、予備的に、更新期間1年に対する更新料の額が月額賃料の2倍以上の更新料を支払う旨の条項につき、主位的請求と同様に、その意思表示の停止及び同行為に供する契約書用紙の破棄を求めた事案。
【判断の内容】
請求棄却。
① 更新料は、一般に、賃料の補充ないし前払、賃貸借契約を継続するための対価等の趣旨を含む複合的な性質を有するものであり、更新料の支払にはおよそ経済的合理性がないなどということはできない。
② 更新料条項が賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載され、賃借人と賃貸人との間に更新料の支払に関する明確な合意が成立している場合に、賃借人と賃貸人との間に、更新料条項に関する情報の質及び量並びに交渉力について、看過し得ないほどの格差が存するとみることもできない。
③ 更新料の額が賃料の額、賃貸借契約が更新される期間等に照らし高額に過ぎるなどの特段の事情がない限り、法10条にいう「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」には当たらない。
④ 被告が現に使用していた更新料条項も、具体的な賃貸借契約における個別具体的な事情にかかわらず高額に過ぎると直ちに断定できず、特段の事情があると認めることができないことから、法10条により無効であるということはできない。
⑤ 更新料条項が無効となる場合があることを理由とする全部差止請求の可否については、「具体的に一部の消費者については有効となりうるとしても無効となる場合があるときにはおよそ更新料条項の使用が差し止められるべきであるという原告の主張は採用することができない」とした。
⑥ 主位的請求について一部認容が可能との主張については、「裁判所において更新料の額が高額に過ぎるか否かの評価根拠事情を特定する必要があるが」「根拠事情は多様であるから、認容すべき範囲を確定することができないおそれがある」とともに、「原告の主位的請求につき一部認容を認めるとなると、防御対象となる前記の根拠事情の多様さゆえに、被告に対して不意打ちとなるおそれもある」ことから、認めることはできないとした。
⑦ 予備的請求について、「更新期間1年に対する更新料の額が月額賃料の2倍の更新料を支払う旨の条項が個々の賃貸借に伴う個別具体的な事情を考慮することなく直ちに前記特段の事情に該当して法10条により無効となるとは認められないし、他の特段の事情の存在によりこれが無効となる場合があり得るとしても、このことを理由として、その条項の使用の全部の差止めを認めることはできない。また、裁判所において更新料の額が高額に過ぎるとの評価に至る根拠となる事情を特定してその一部を認容することができないことも、主位的請求の場合と同様である。」として原告の請求をいずれも棄却した。
◆ H23.12.13京都地裁判決
平成20年(ワ)第3842号解約金条項使用差止請求事件、平成21年(ワ)第3478号解約金請求事件、平成23年(ワ)第1094号解約金返還請求事件、平成23年(ワ)第2581号不当利得返還請求事件
消費者庁HP、判決写し(PDF、京都消費者契約ネットワークHP)、国セン発表情報(2012年11月1日公表)、判例時報2140号42頁、金融商事判例1387号48頁、現代消費者法17号79頁
裁判官 瀧華聡之、奥野寿則、堀田喜公衣
適格消費者団体 京都消費者契約ネットワークHP
事業者 株式会社セレマ、株式会社らくらくクラブ
控訴審 H25.01.25大阪高裁判決
【事案の概要】
適格消費者団体が冠婚葬祭の相互扶助や儀式設備の提供等を業とする株式会社セレマ及び旅行業や相互扶助的冠婚葬祭の儀式施行に関する募集業務等を業とする株式会社らくらくクラブに対し、①被告セレマ及び被告らくらくが消費者との間で締結している互助契約又は積立契約において、それぞれ契約解約時に支払済金額から「所定の手数料」などの名目で解約金を差し引くとの条項を設けていることに関し、同条項は消費者契約法第9条第1号又は同法第10条に該当するものであり、消費者に対し解約金を差し引くことを内容とする意思表示を行わないこと、②①が記載された契約書雛形が印刷された契約書を破棄すること、③従業員らに対し、①の意思表示を行うための事務を行わないこと及び②の契約書の破棄を指示することを求めた事案。
【判断の内容】
いずれも、以下の理由から請求を認容した。
(被告セレマに対し)
① 9条1号にいう「平均的な損害」とは、契約の解除の事由、時期等により同一の区分に分類される複数の同種の契約の解除に伴い、当該事業者に生じる損害の額の平均値をいう。
② 一人の消費者と被告セレマとの間で締結される消費者契約である本件互助契約にあっては、「平均的な損害」の解釈にあたっても、一人の消費者が本件互助契約を解約することによって被告セレマに生じる損害を検討する必要がある。
③ 本件互助契約に関して消費者から冠婚葬祭の施行の請求があるまでにされた解約によって、月掛金を1回振替える毎に被告セレマが負担した58 円の振替費用をもって被告セレマに損害が生じているというべきであり、その限度を超える解約手数料を定める解約金条項は9条1号により無効である。
(被告らくらくに対し)
④ 不特定多数の消費者との関係での被告らくらくの業務維持及び販売促進のための費用については、一人の消費者による契約の解約にかかわらず、常に生じるものといえるため、「平均的な損害」には含まれない。
⑤ その他の費用については、当該一人の消費者が契約し、又は当該契約を解約することがなければ被告らくらくが支出することがなかった費用といえるため、「平均的な損害」に含まれうるが、本件においては上記費用の正確な数値が算定できない。
⑥ 本件積立契約においては、事務手数料として月額150円が被告らくらくに支払われており、外交員の集金手当、振替費用等は上記費用をもってまかなわれているとみるべきであり、解約手数料を徴収するとする解約金条項は9条1号により無効である。
◆ H24.01.31旭川地裁判決
平成23年(レ)第45号、平成23年(レ)第55号放送受信料請求控訴,附帯控訴事件
最高裁HP、判例時報2150号92頁
裁判官 田口治美、田中寛明、徳光絢子
【事案の概要】
NHKの受信料請求。「放送受信契約者が受信機を廃止することにより,放送受信契約を要しないこととなったときは,放送受信章を添えて,直ちに,その旨を放送局に届け出なければならない。」との規定が,受信契約の解約の方法を著しく制限し,消費者の利益を一方的に害する条項であるとして10条に反し無効であり、契約解約がなされているとの主張がなされた。
【判断の内容】
解約の意思表示が認められないと認定しつつ、なお書きで、同規定は10条の「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」に当たるとはいえないとした。
◆ H23.03.18大阪簡裁判決
平成22年(ハ)第27941号不当利得返還請求事件
消費者法ニュース88号276頁
裁判官 篠田隆夫
【事案の概要】
建物賃貸借契約で、礼金が10条違反であるとして不当利得返還請求をした事案。礼金12万円、期間1年の契約で1カ月と8日のみ使用し退去した。
【判断の内容】
以下の理由から、礼金12万円のうち、3万円を控除した9万円の返還を命じた。
① 礼金は、実質的には賃借人に建物を使用収益させる対価(広義の賃料)であるが、その他にもその程度は気迫ではあるものの賃借権設定の対価や契約締結の謝礼という性質をも有している。一定の合理性を有する金銭給付であり、礼金特約を締結すること自体が「民法1条2項に反して消費者の利益を一方的に害するもの」であるとはいえない。
② 礼金は実質的に前払い賃料であるから、予定した期間が経過する前に退去した場合は、建物未使用期間に対応する前払い賃料を返還するべきことは当然。礼金は返還しないという合意は、契約基幹系構え退去の場合に前払い分賃料相当額が返還されないとする部分について消費者の利益を一方的に害するものとして10条により一部無効というべきである。
◆ H23.11.24京都地裁決定
平成23年(ヲ)第33号間接強制申立事件
決定写し(PDF、京都消費者契約ネットワークHP)
裁判官 大島雅弘
適格消費者団体 京都消費者契約ネットワーク
事業者 株式会社長栄
第1審 H21.09.30京都地裁判決
控訴審 H22.03.26大阪高裁判決
【事案の概要、判断の内容】
適格消費者団体が,不動産賃貸業及び不動産管理業を目的とする事業者である被告に対し,定額補修分担金条項が10条に反して無効であるとして,定額補修分担金条項を含む意思表示をすることの差止を認めた第1審判決に基づき、当該条項を含む意思表示をしたときは1回につき50万円の割合による金員を支払うとの内容の間接強制が認められた。
◆ H22.09.28東京地裁判決
平成21年(ワ)第23889号入居金返還請求事件
判例時報2104号57頁
裁判官 綿引穣、佐藤重憲、金洪周
【事案の概要】
介護付有料老人ホームの入居契約をしたところ、入居者(母)が1年10カ月後に死亡した。入居時に、入会金として105万円、施設協力金として105万円、入居一時金として1155万円を支払っており、入居一時金は20%を契約締結時に、残り80%は5年間で償却するとされていた。入居金、入居一時金が10条違反である等として、返還を受けた金額との差額の返還請求をした事案。
【判断の内容】
請求棄却。
① 本件入居金の額、使途及び償却基準等は、東京都の指針に従っており、都知事から事業者指定を受けている。入居金を徴収することや、契約締結時に20%を償却することは都の指針もこれを前提とする規定を置いている。
② 入居金の使途、額の算定の仕方、償却期間の設定状況、短期間で死亡した場合の定めがあり、その説明を受け署名していることなどからは、入居一時金の償却は民法、商法その他の規定が適用される場合に比して消費者の利益を害するものではなく、10条にはあたらない。
◆ H19.11.30大阪地裁堺支部判決
【事案の概要】
原告は、被告に対して、放送受信契約に基づいて、衛星放送の受信設備を設置したことを要件とし、視聴の意思がない者にも一律に衛星カラー契約の締結を義務づけることは、契約自由の原則に反する、信義誠実の原則に反して消費者の利益を一方的に害する(消費者契約法10条)と主張して、カラー契約から衛星カラー契約に契約変更する債務が存在しないことの確認を求めた。
【判断の内容】
放送法32条及びこれに基づく放送受信規約は、被告の放送を受信することのできる受信設備を設置した者に対し、放送を視聴する意思の有無にかかわらず、その受信設備の種類に応じた契約を締結し、その契約の種別ごとに定められた受信料を負担することを義務づけており、これは、契約による法律関係の形成についての個人の自由を制限するものであるとともに、法律の任意規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は義務を加重する消費者契約の条項(消費者契約法10条)を定めたものと解する余地がある。
しかし、衛星放送をカラー受信することのできる受信設備を設置した者に対し、衛星放送を視聴する意思の有無にかかわらず、カラー契約から衛星カラー契約への契約変更を義務づけることは、契約自由の原則の例外として許容されるというべきであり、また、信義誠実の原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの(消費者契約法10条)ではない。よって放送法 32 条及び放送受信規約は有効であり、原告に契約変更の義務があるとして、原告の請求を棄却した。
◆ H19.11.22大阪地裁堺支部決定
【事案の概要】
貸金業者である申立人(被告)との間で金銭消費貸借を繰り返していた相手方(原告)が申立人に対して、過払金が発生しているとして、不当利得変換請求権に基づいて過払金等の返還を求めた事案につき、申立人が金銭消費貸借契約上の専属管轄条項に基づいて、移送の申し立てをした。
【判断の内容】
「訴訟行為については、姫路簡易裁判所を以って専属的合意管轄裁判所とします」との本件条項があることが認められるから、本件に関する訴訟行為については、姫路簡易裁判所が専属的合意管轄であるというべきである。相手方は、本件条項は消費者契約法10条により無効である旨主張するが、本件条項を貸金返還請求訴訟や保証債務履行請求訴訟だけでなく、本件のような過払金返還請求訴訟に適用しても、社会的弱者である消費者の権利を制約し、不当な不利益を与えたりするものとはいえないから、相手方の消費者契約法10条違反の主張は採用することができない。(申立人と相手方との間には姫路簡易裁判所を専属的管轄とする合意が成立しているというべきであるが、民事訴訟法17条の趣旨に照らし、本件移送申立てを却下した)
◆ H19.10.30大阪地裁判決
国セン報道発表資料(2011年11月11日公表)
控訴審 H20.05.19大阪高裁判決
【事案の概要】
本件団地の建替計画の共同事業予定者である不動産会社(原告)が、団地管理組合の一括建替え決議を踏まえて、建替え賛成者から区分所有権を取得した上で、区分所有者として任意に売り渡さない居住者(被告)に対して、区分所有法所定の売渡請求権を行使したとし同請求権行使によって売買契約が成立したと主張して、所有権に基づき、所有権移転登記手続等を請求した。被告らは、手続違反等による一括建替え決議の無効、消費者契約法8条ないしは10条による無効等を主張した。
【判断の内容】
(本件一括建替え決議の消費者契約法違反性について)被告らは、従前資産売買契約中の条項の消費者契約法違反をもって本件一括建替え決議の無効を主張するものであるが、従前資産売買契約は、本件一括建替え決議に基づく建替え計画実施の一部をなすものではあっても、本件一括建替え決議の内容をなすものではなく、従前資産売買契約の法令違反が直ちに本件一括建替え決議の違法や無効を帰結するものではないというべきであるし、従前資産売買契約が仮に法令違反で無効となったとしても、それが本件一括建替え決議の無効を帰結するものではないというべきである。また、消費者契約法8条ないし10条は、同条違反の条項を違反する範囲で無効とするものであって、当該消費者契約全体を無効とするものでないことは条文の文言に照らして明らかである。以上のとおりであるから、被告らの上記主張は採用することができない。
(なお、原告の被告らに対する本件各請求はいずれも理由があるとして、原告の被告らに対する所有権移転登記、明渡し請求を認めた)
◆ H16.07.08東京地裁判決
平成16年(ワ)第997号
判例マスター
裁判官 綿引万里子
【事案の概要】
ペットの犬を業者から購入したところ、1年10ヶ月経過後に突発性てんかんと診断されたことを理由に、債務不履行、瑕疵担保責任に基づく損害賠償を求めた事案。業者の免責約款が8条1項1号、8条1項2号、10条により無効となるかが争われた。
【判断の内容】
1 本件は債務不履行にはならないが、突発性てんかんが遺伝的要因によって発症したものであるとすれば、隠れた瑕疵を有していたものとして業者は瑕疵担保責任を負担する。
2 8条1項5号は有償契約の瑕疵担保責任による賠償責任をすべて免除する条項を無効とするものであり、本件では、病気治療保障(購入日より2週間以内に発病し48時間以内に指定医に持ち込まれたときに治療費を負担)、先天的欠陥保障(購入日より3ヶ月以内又は生後5ヶ月以内に申し出があった場合代犬を提供する)があり、それ以外の場合を免責するものであり、すべてを免除するものではないから、同条項により無効となると解する余地はない。
3 保障部分を本件条項の場合に限定することは合理的理由があるから、民法1条2項の基本原則に違反するものとして10条に該当し、もしくは民法90条により無効であり、又は免責主張が信義則に反するとはいえない。