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◆ H24.07.05東京地裁判決

判決年月日: 2012年7月 5日
2012年7月5日 公開

平成22年(ワ)第33711号消費者契約法12条に基づく差止請求事件
消費者庁HP(PDF)消費者機構日本HP(判決写しあり)、金融商事判例1409号54頁、判例時報2173号135頁、国セン発表情報(2012年11月1日公表)
裁判官 谷口安史、日置朋弘、川勝庸史
適格消費者団体 消費者機構日本
事業者 三井ホームエステート株式会社
控訴審 H25.03.28東京高裁判決

【事案の概要】
 適格消費者団体が,不動産賃貸業者に対し,①更新料の支払を定めた条項及び②契約終了後に明渡しが遅滞した場合の損害賠償額の予定を定めた条項が9条1号及び10条に規定する消費者契約の条項に当たると主張して,12条3項に基づき,その契約の申込み又は承諾の意思表示の停止及び契約書用紙の破棄並びにこれらを従業員に周知・徹底させる措置をとることを求めた事案。

【判断の内容】
●更新料条項について
① 賃貸借契約の更新料は,契約期間が満了し,賃貸借契約を更新する際に賃借人と賃貸人との間で授受される金員であるところ,これがいかなる性質を有するかは,賃貸借契約成立前後の当事者双方の事情,更新料条項が成立するに至った経緯その他諸般の事情を総合考量し,具体的事実関係に即して判断されるべきであるが(最高裁昭和59年4月20日第二小法廷判決・民集38巻6号610頁参照),更新料は,賃料と共に賃貸人の事業の収益の一部を構成するのが通常であり,その支払により賃借人は円満に賃借物件の使用を継続することができることからすると,更新料は,一般に,賃料の補充ないし前払,賃貸借契約を継続するための対価等の趣旨を含む複合的な性質を有するものと解するのが相当(最高裁平成23年7月15日第二小法廷判決・民集65巻5号2269頁参照)。
② このような更新料の一般的性質に加え,被告が,平成24年3月1日以降,本件更新料について,契約期間の満了時に契約の継続を選択する権利を行使する対価として支払われるものであることを契約書に明記していること(7条1項)に照らせば,事業者である被告は,本件更新料を,主として,賃貸借契約を継続するための対価として賃借人が賃貸人に支払うものであることを予定して契約書の条項に記載しているものと解するのが相当。
③ 本件更新料は,主として賃貸借契約を継続するための対価として支払われるものとされているから,継続後,その期間満了前に賃貸借契約が終了したとしても,その性質上,当然に賃借人に返還されるべきものであるとはいえない。そうすると,本件更新料支払条項において,更新後の契約期間の途中で賃貸人の責に帰すべからざる事由によって契約が終了した場合でも本件更新料が返還されない旨が定められているからといって,同条項をもって,契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し,又は違約金を定める条項であると解することはできない。
④ 本件更新料は,主として,賃貸借契約の継続の対価としての性質を有するものとされているところ,賃借人は本件更新料の支払により円満に賃貸借契約の継続を受けられる地位を取得するのであるから,本件更新料の支払におよそ経済的合理性がないなどということはできない。また,一定の地域において,期間満了の際,賃借人が賃貸人に対し更新料の支払をする例が少なからず存することは公知であることや,従前,裁判上の和解手続等においても,更新料の支払を約する条項が公序良俗に反するなどとして,これを当然に無効とする取扱いがされてこなかったことは裁判所に顕著であることからすると,更新料の支払を約する条項が賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載され,賃借人と賃貸人との間に更新料の支払に関する明確な合意が成立している場合に,賃借人と賃貸人との間に,更新料の支払を約する条項に関する情報の質及び量並びに交渉力について,看過し得ないほどの格差が存するとみることもできない。
 そうすると,本件更新料支払条項についても,賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載されていると認められ,かつ,更新料の額が賃料の額,賃貸借契約が更新される期間等に照らし高額に過ぎるなどの特段の事情がない限り,消費者契約法10条にいう「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」には当たらないと解するのが相当。(以上につき,前掲最高裁平成23年7月15日判決参照)
 本件更新料支払条項は,契約の継続をしようとする場合に更新料を支払うべきこと及びその金額の算定方法が契約書に一義的かつ明確に記載されている上に,その内容は,被告が取り扱う賃借物件につき,当該賃貸借契約が更新される期間を2年間としつつ,一律に更新料の額を賃料の1か月分とするものであり,本件更新料の性質が主として契約を継続するための対価であることを踏まえても,その額が高額に過ぎるものと認めることはできない。そして,賃借人としても本件更新料を上記のとおり理解することに特段の支障があるものとは認められないから,上記特段の事情が存するとはいえない。
 したがって,本件更新料支払条項は消費者契約法10条後段の要件を充足しない。
●倍額賠償予定条項について
① 9条1号は,事業者が消費者契約の解除に伴い高額な損害賠償の予定又は違約金の定めをして消費者に不当な金銭的負担を強いる場合があることに鑑み,消費者が不当な出捐を強いられることのないように,消費者契約の解除の際の損害賠償額の予定又は違約金の定めについて,一定の限度を超える部分を無効とする規定である。
② 本件倍額賠償予定条項は,約定解除権又は法定解除権が行使されて契約が終了する場合のみならず,契約が更新されずに期間満了により終了する場合も含め,賃貸借契約が終了する場合一般に適用されるものであり,その条項上の文言としても,契約の解除ではなく契約が終了した日以降の明渡義務の不履行を対象としていることからすれば,本件倍額賠償予定条項は,契約が終了したにもかかわらず賃借人が賃借物件の明渡義務の履行を遅滞している場合の損害に関する条項であって,契約の解除に伴う損害に関する条項ではないと解すべき。
③ 建物賃貸借契約書に記載された契約終了後の目的物明渡義務の遅滞に係る損害賠償額の予定条項については,その金額が,上記のような賃貸人に生ずる損害の填補あるいは明渡義務の履行の促進という観点に照らし不相当に高額であるといった事情が認められない限り,消費者契約法10条後段にいう「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」には当たらない。本件は当たらない。



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